ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の基準

「エネルギーの使用の合理化に関する法律」とは一般に言われる「省エネ法」のことで、法律として定められた建築物に対する省エネ性能向上の指針を示しています。特に罰則などは規定されていない法律で、指針に沿わない建築に関しては指示や勧告が行えることになっています。
「住宅事業建築主の判断の基準における計算に準拠した評価方法」とは、その「省エネ法」によって定められたエネルギー消費量の計算方法で、冷房や暖房の方式、換気システムなど指針とすべき基準値をもとに詳細な計算が行えるようWEBプログラムなども用意されています。

「年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロであること」で使われている「一次エネルギー消費量」とは、電気やガスなど(自然エネルギーを使いやすいように人為的に変換した)二次エネルギー消費量を一次エネルギー消費量に換算した値のことです。「ネットでゼロ」は書かれている通り「正味ゼロ」「差し引きゼロ」という解釈で問題ありません。
この要件文には含まれていませんがエネルギー消費量をネットでゼロにするためには、もちろん太陽光発電や燃料電池による「創エネルギー」も加味して考える必要があります。

こうした創エネルギーと、住宅性能(断熱性や気密性)等によって削減された省エネルギーの割合も定められており、経済産業省が発表している「ZEHロードマップ検討委員会とりまとめ(平成27年12月)」によると、少なくとも一次エネルギーの20%以上は省エネで削減しなければならないとされています。
つまり難解に見える文章ですが平たく言い直すと、ZEH(ゼロエネ住宅)とは、以下の条件を満たした住宅ということになります。
「省エネ法に基づいた建築・設備によって減少したエネルギー消費量と創エネによって作り出されたエネルギーの合計が、その建物で消費される標準のエネルギー消費量と等しいか多い(ただし創エネを除いた分で、20%以上のエネルギー消費量を削減しなければならない)。」
ZEHってどんな家?
いきなり具体的な要件を考えると混乱してしまうので、最初にZEHの全体像、あるいはZEHと呼ばれる家について解説します。
ZEHを簡単に解説
ZEHは「省エネルギー」と「再生可能エネルギー」の導入により、年間のエネルギー消費量の収支がゼロになることを目指す住宅です。つまり、使用するエネルギーを減らすと同時にエネルギーを作り出し、自給自足を目指す住宅といえます。この条件に当てはまる住宅をZEHといいます。
ZEHと一次エネルギー
何となくイメージはつかめたものの、まだ引っ掛かりを感じる方はいるはずです。多くの方が引っかかっているのが、「年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすること」の部分ではないでしょうか。一次エネルギーとはどのようなエネルギーなのでしょうか。
一次エネルギーは、石炭や石油、太陽放射、風力、水力など、自然界に存在する加工前のエネルギーです。一次エネルギーを発電や精製などで変換・加工したエネルギー(電気やガソリンなど)を二次エネルギーといいます。二次エネルギーをつくるには、変換・加工後にできる二次エネルギーより多くの一次エネルギーが必要になります。一次エネルギー(原料)の採掘や運搬などにもエネルギーが必要になるからです。
ZEHが一次エネルギーを基準にしている理由は、二次エネルギーを基準にすると正確な収支が分からないからといわれています。二次エネルギーをつくるため沢山の一次エネルギーを消費するので、二次エネルギーだけを基準にすると本当に収支がゼロになっているかわかりません。一次エネルギーを基準にすることで、環境に与える影響も分かりやすくなります。
大幅な省エネルギーを実現
ZEHは、年間のエネルギー収支をゼロにするため室内の環境を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現します。この目的を達成するため取り組むのが、外皮(外壁や窓枠)の断熱性能を大幅に向上させることです。住宅の断熱性能を高めることで「夏は涼しく、冬は暖かい住宅」を実現できます。室温が安定することで冷房や暖房を必要としなくなるので、省エネルギーにつながります。
とはいえ、住宅の断熱性能を高めてもエネルギー消費をゼロにすることは出来ません。給湯や照明、換気などにエネルギーを必要とするからです。また、断熱性能が高まっても、気候によっては冷房や暖房は必要になります。そこで導入するのが省エネルギー設備です。従来の設備よりも効率性の高い高効率エアコンやLED照明、ハイブリッド給湯器などを導入することでエネルギー消費量を減らせます。ZEHは、高効率な設備システムの導入によっても省エネルギーを実現します。
再生可能エネルギーを導入
ZEHは、以上の取り組みにより大幅な省エネルギーを目指します。大幅な省エネルギーを実現したとしても、それだけでエネルギー消費量の収支がゼロになることはありません。そこで導入するのが再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーとは、地球環境に負荷をかけにくい自然界のエネルギーです。現在のところ、ZEHには太陽光を利用する太陽光発電システムなどが導入されています。
太陽光発電システムは、太陽光が当たると発電する太陽電池モジュール、創った電力をまとめる接続ユニット・昇圧ユニット、作った電気を使える状態に変えるパワーコンディショナーなどから構成されるシステムです。ZEHでは創った電気を効率よく使うため、電気を溜めておく家庭用蓄電池や創ったエネルギーと使ったエネルギーを見える化するHEMS(Home Energy Management System)などをセットで設置します。これらによりエネルギーを作り出し、エネルギー消費量の収支ゼロを目指します。
省エネルギーと創エネルギーを兼ね備えた家
ZEHは、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅です。この目標を達成するため、省エネルギーと創エネルギーに取り組みます。具体的には、外壁や窓枠の断熱性能を高めること、効率性の高い設備を導入することなどでエネルギー消費量を減らすとともに太陽光発電システム、家庭用蓄電池、HEMSなどを用いて使用するエネルギーを作り出します。これらの取り組みの結果、年間の消費エネルギーより年間の創エネルギーが大きくなると考えられる住宅をZEHといいます。
ZEHで生活はこう変わる
ZEHの魅力は、環境に優しいだけではありません。ZEHで生活はどのように変わるのでしょうか。
ZEHの特徴は、省エネ性が極めて高いこととエネルギーを自ら作り出せることです。太陽光発電システム以外に、家庭用燃料電池などでもエネルギーを作り出せます。家庭用燃料電池では、発電時に発生する熱を給湯に利用することもできます(さらには、温水床暖房に利用することも可能です)。省エネ性が高く、作り出したエネルギーを無駄にしないので、ZEHは売電で利益を出しやすいとされています。建築費が割高といわれるZEHですが、補助金や売電による利益を考えるとそうとは言い切れないかもしれません。
住宅の断熱性能が高いこともZEHの特徴です。室温の変動が少ないので、季節を問わず快適に過ごすことが出来ます。断熱性能が高いので、部屋間の温度に差が生まれにくいともいわれています。お風呂やトイレの室温も一定に保てるので、ヒートショック(急激な温度差による血圧の上昇や脈拍の変動など)のリスクを低減できます。また、室温を気にせず吹き抜けなどを作れるので設計の自由度があがります。窓に熱を伝えにくいガラスを使用することで結露ができにくい点もZEHの特徴です。従来の住宅とは、全く異なる住宅といえそうです。
ZEHは、省エネ性能を高めることで住み心地の良い住宅になっています。環境への負荷や光熱費を考えてZEHを選ぶ方が多いようですが、実際に住んでみるとこれらよりも快適性に満足する方が多いようです。もちろん、売電で利益を得やすい点も見逃せません。経済産業省は、2020年までにハウスメーカーなどが建築する注文受託の過半数でZEHを実現することを目標に掲げています。今後は、ZEHがスタンダードな住宅になると考えられます。いつまでも快適に過ごせる家を探している方は、ZEHを選ぶと良いでしょう。
ZEHは、ZEHに強いビルダーで建てることが重要です。ZEHに強い2社を徹底解剖しているので参考にしてください。
ZEH(ゼロエネ住宅)の必須条件
ゼロエネ住宅の基本的な定義は上記のように「消費エネルギーと作りだすエネルギーの差し引きがゼロ」ですが、経済産業省によってネット・ゼロ・エネルギー・ハウスと認可されるためには、以下の要件も満たしている必要があります。
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一定の断熱性能
断熱性能が「省エネ法」(「エネルギーの使用の合理化に関する法律」)で定める基準値以下であることが必要です。断熱性能は日本全国の都道府県を6つの地域に区分けし、Ua値(外皮平均熱貫流率)とηa値(冷房期の平均日射熱取得率)がそれぞれ定められています。
大まかな分類は都道府県別で設けられており、実際は市町村別の区分もあります。省エネ法は改定もありますので、詳しくは経済産業省のホームページをチェックするとよいでしょう。
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自然エネルギー
「ZEH(ゼロエネ住宅)」特有の要件で、自然エネルギー等を取り入れた、先進性が認められる設計手法・制御機構が不可欠とされています。
具体的には自然エネルギー等を取り入れた設計手法として「開口部通風利用システム」「床下冷熱利用システム」「自動制御式可動ルーバー」、制御機構として「日射連動シャッター」「照度センサー付き照明」「重さ感知センサーによる照明システム」「屋内と屋外の温度差による換気制御システム」が参考例としてあげられています。 -
計測装置
「エネルギー使用量」と「創エネルギー量」を計測してデータを蓄積、表示できる計測装置の導入が必要です。計測は30分間隔で行い、1日単位のデータを13ヶ月以上蓄積可能なものが条件です。
もちろん、計測装置が安定稼働し、定期的にエネルギー使用状況を報告できる状態にしておくことが前提となります。 -
太陽光発電システム
ZEH(ゼロエネ住宅)には「創エネ」が不可欠なため、太陽光発電システムも必須条件に挙げられています。
太陽光発電システムは他の創エネをシステム、例えば風力発電や蓄電池と比較すると、効率的、かつ家庭用として導入しやすいため定められているものです。
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SII登録の施工業者
設備面の条件をクリアするだけでは、ZEH(ゼロエネ住宅)とは認定されません。設計・建築、または販売を行う業者が、SIIに登録されている「ZEHビルダー」である必要があります。
SII(Sutainable open Innovation Initiative)は、ZEHの補助金を国から受け取り、書類審査によって申請者に給付する役割を負っている社団法人です。 -
リフォームした場合、導入必要項目を網羅すること
ZEH(ゼロエネ住宅)でない住宅をZEH(ゼロエネ住宅)にリフォームする場合は、上記の条件を網羅していなければなりません。
